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大阪高等裁判所 昭和60年(ラ)386号 決定

抗告人 大城夕子

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨〔略〕と理由は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

当裁判所も本件事件記録に顕われた諸事情をもつては戸籍法107条1項所定の氏を変更するに足る「やむを得ない事由」に該るものとは認められず、他に右事由を認めるに足る的確な証拠がないから本件申立を却下すべきものと判断する。

その理由は原審判理由説示と同様であるからこれをここに引用する(但し、原審判2枚目表6行目の「氏族を表示する呼称であるから」を「親子同氏の原則、夫婦同氏の原則の適用があり」と、同7行目の「名のように変更」を「直ちに、名の場合と同様の期間の使用のみをもつて氏の変更」と訂正する)。

一件記録を調査しても、他に原決定を取消さねばならない違法の点は見当らない。

したがつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 廣木重喜 裁判官 長谷喜仁 吉川義春)

抗告の実情

〈1〉 抗告人は55年10月に吉本こと車政信と結婚し以来通称して吉本の氏を使用してきたがその間に子供2人が生れて韓国籍に入籍しましたが60年1月1日に国籍法が改正になり子供2人に日本籍の取得を考えています。そして長女啓子は幼稚園の名前を吉本としており日本国籍を取得すれば大城の名前をなのりますので社会生活に多大の支障をきたしますので抗告します。

〈2〉 よつて抗告の趣旨どおり裁判を求めるためこの申立てをします。

〔参照〕原審(奈良家 昭60(家)786号 昭60.8.23審判)

主文

本件申立を却下する。

理由

一1 申立の趣旨

申立人の氏「大城」を「吉本」と変更することの許可を求める。

2 申立の実情

申立人は、昭和55年10用吉本こと車政信と結婚し、以来通称として「吉本」の氏を使用してきたが、戸籍上も「吉本」の氏にしたいので、本件申立をした。

二 当裁判所の判断

1 申立人に対する審問の結果、申立人の戸籍謄本、住民票の謄本によれば、次の事実が認められる。

(一) 申立人は、父大城源三、母ツキの三女であるが、昭和55年10月6日車政信(国籍韓国、1954年8月11日生)と婚姻し、その届出をした。2人の間に、長女車啓子(1981年4月13日生)、長男車貴一(1983年10月1日生)があり、いずれも韓国籍である。

(二) 車政信は、申立人と結婚する以前から「吉本」の氏を称し、申立人、2人の子らも、日常生活において、「吉本」の氏を使用し、これが通称となつている。

2 上記事実によれば、日本人女性である申立人は、韓国人男性と婚姻し、その氏を夫の通称の氏に変更しようとするものである。昭和59年法律45号による改正後の戸籍法107条2項(なお、付則11条)は、外国人と婚姻した者の氏の変更について規定するが、右氏は、もとより戸籍上の氏をいうのであつて、通称の氏をいうものではないから、同法107条1項によつて、やむを得ない事由がなければ、氏の変更を許可することはできない。

本来、氏は、氏族を表示する呼称であるから、自由に称しうるものではなく、従つて、永年使用したからといつて、名のように変更を認める事由となるものではない。また、通称の氏に変更するとすれば、夫の氏でもなく、妻の氏でもない氏を創設することになり、氏の一貫性、永続性にも欠け、氏の本来的意義が失われることになる。従つて、日本人の妻が外国人夫の通称の氏に変更するためのやむを得ない場合としては、夫の氏が通称の氏に変更されたか、もしくは、変更される見込みが高い場合にかぎられると解するのが相当である。本件においてかかる事情は認められない。

よつて、本件申立は、氏の変更を許可すべきやむを得ない事情がなく、理由がないので、却下することとし、主文のとおり審判する。

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